技術の進歩と、社会への影響は?

 このところ、インタネットは今後の社会にどのような影響を与えるのだろうか?ということを考えるようになってしまいました。こんな妙なことを考えるきっかけになったのは、技術史関連の調査をやっていてなんです。

 技術の発展って、事実上情報の共有によって加速されるということだからなんです。何か傑出した人物であるとか著作であるとか技術であるとかが現れるとき、それは、単独で成り立つものではあまり無いからです。大抵は、その事柄を受容する社会がすでに存在する必要があります。

 ある日突然発見されて、それがセンセーションを巻き起こすなんってものはあまり無いような気がします。製品開発などを考えると、こういった機能を持ったものが欲しいということから、研究開発し実用化されていきます。

 たとえば、絵の出るレコードなんってのもそんな感じですかね?

 ある日突然発見され、センセーションを巻き起こしたもの・・・まあ、レントゲンの発見したX線などはその例として上げられるかも知れません。

 陰極線の研究をしていたヴィルヘルム・コンラート・レントゲンが1895年11月8日に、光を通さない黒紙につつまれたクルックス管で実験をしていたところ、近くの蛍光紙の上に、かすかな明るさを感じます。これによって、光とはちがった何かがクルックス管から放射されていることに気づきます。

 これから、研究が始まります。

 暗い線が表れたのに気付いた。この発光は光照射によって起こるが、クルックス管は黒いボール紙で覆われており、既知の光は遮蔽されていた。状況的に作用の元は外部ではなく装置だとレントゲンは考え、管から2メートルまで離しても発光が起きることを確認した。これにより、目には見えないが光のようなものが装置からでていることを発見した。後年この発見の時何を考えたか質問されたレントゲンは、「考えはしなかった。ただ実験をした」と答えている。実験によって、可視光とはちがったもので、陰極線のように磁石や電気の影響を受けない光と同じような性質のものと判断します。そこで、12月28日には最初の論文を完成し発送します。この放射を写真乾板でとらえ、指輪をした奥さんの手のレントゲン写真をなどの実例を載せた論文を1896年に発表します。直ちに追試が行われ、この反響は海外まで広がります。この論文は1月14日には英語版がネイチャー誌に発表されます。国内では、1月13日にドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の前でX線写真撮影を実演します。ここまで行くと、もう製品化が終了でしょう。

 発見がそのまま実用品に化ける例として良いのでは?なんって思えるわけです。研究そのものは陰極線の研究で、その副産物としてγ線検出と、実用が一緒になって出てきたのですからね。瓢箪から駒か?う・・・クルックス管からX線・・・似ている気がする・・・クルックスもこの放射に気づいていたようなんですが、それを追求しなかったようですから、チャンスというのは重要なのでしょう。

 この時期は、大勢の研究者が陰極線を巡って研究合戦をやっていましたから。そういえば、アンリ・ベクレルはX線の発見によって、ものに蛍光を出させる物質を調べ始め、ウランからの放射を見出していましたね。この頃の科学者って研究対象が山ほどあったらしく、ベクレルは、この研究を放り出していていました。このウランの研究を引き継いでいったのがキュリー夫人ということになるようです。

 さて、この頃、出版も盛んですし電信などでヨーロッパはつながっていますし、共同研究などで情報が広がっていくのでしょうが。それにしても、情報伝達がものすごい速度で行われていた事がわかります。郵便などの、現物を動かす速度については今と大差はなかったのでは?なんって思えますね。

 今は、インターネットの時代・・・地球の裏側だって、事実上リアルタイムですから。そういった高速な通信網が社会に与える影響と、もうひとつは、知識の集積なんです。

 たとえば、明治時代の日本について知りたいと思うと、昔なら図書館に出向いてそこで蔵書のチェックをして、必要とする情報がその図書館に存在するか、場合によっては司書に尋ねるなどする必要がありました。今では、多くの公立図書館の蔵書はオンラインでチェックできますね。もっとすごいのが、国会図書館など著作権切れの蔵書をデータ化して公開しているなどのサービスがあります。ここで、当時の原典をあたれば、かなりのことができるというわけです。そして、ネットの上には、古い絵葉書などもありますし、世界中の映像資料を集めようと思えば集められますしね。

 概要であれば、ウィキペディアもありますしね。他国語版へのリンクがあるので便利ですが・・・近頃、英語版やドイツ語版を眺める機会が増えて・・・日本版の記載の弱さが気になるんです。それでも、着実に知の集約が進んでいることは喜ばしいことです。

 さて、ここでちょっと気になるのが、1900年ごろと比べると何が違うのか?これです。明確なのは、情報量です。したがって、情報のソースはそれほど多くないので、関心のある事象に関するチェックは楽だったのではないかと思います。そりゃド田舎だと駄目ですけど・・・文化の中心に近い場所ならOKだと思われます。

 まあ、今では検索エンジンがかなり優秀ですから、うまく検索すれば、最新の色々な情報を取り出すことができます。そうか、これから重要になる商売がありますね。インターネット上の情報を検索してレポートにまとめる商売・・・雑多な情報を篩いにかけるというやつですね。グーグルの検索エンジンがキーワードから検索者が望んでいると思われる情報を割り出して、検索結果に反映させるようなことをしていますが、私には、ちょっと困りものですけどね。

 情報量が多く、それが万民に公開されている・・・このことで何が起こるか?たぶん、教師の手に負えないガキが増えるということではないかと思います。キーボード入力に慣れると・・・冊子体の辞書を引かなくなります。私は、近頃冊子体の本を眺めていないな・・・なんって気がします。新しい本を買い込むと、読む前に写真に撮ってしまうときがあります。出先にコンピュータがあると、これですね。資料性の高いものは・・・荷物が増えるのは嫌ですから・・・辞書の代わりにインターネット上の情報を得るようになると・・・教師の持つ知識量を遥かに超えたガキの完成です。

 こうなると、旧来的な学校教育は崩壊の危機を迎えます。そう、塾で学んだガキが学校の授業を馬鹿にするというやつです。検索に慣れると・・・飽きるまで1つのテーマを追い続けることができます。問題は、その飽きるまで・・・1800年代末の陰極線の研究者を一人一人調べて、編年体に研究をまとめるとかする作業をすると、何日かかかりそうな気がします。

 まあ、簡易なデータベースを組めば、手当たり次第に放り込んで、後で整合性のチェックをしてやれば・・・とか、つまりコンピュータって人間の能力を飛躍的に拡大することができるというわけなんです。

 以前、気合の入った人間がどれぐらいで1つの教科について高校範囲までの学習内容を一通り終わらせることができるか?塾のカリキュラムとしての最短を考えてみたことがあります。すると、一般的な読み書きがきちんとでき、分数小数の四則計算ができる生徒であれば、小5の夏以降から始めて、1教科あたり5ヶ月から6ヶ月程度である程度終わるのではないかと思われました。主要5教科として3年ですかね。中学終了時点で高校までのカリキュラムが終了しそうな気がするんです。

 小5の前半までに行う勉強は、文章の書き取りと計算練習だけだとしてもですね。

 小学校の低学年から、インターネットを利用し、4年生ぐらいで興味を持って調べて・・・下手をすると外国語だって読むとなると・・・半端じゃない知識量を持つことになるでしょう。こんなのが、30人ぐらいのクラスに5人もいたら・・・教育現場が混乱しますね。

 こうなると、無学年単位制で飛び級とかありで・・・あまり、学びたくない人は、のんびりとカリキュラムをこなしていくことになるのでは?しかし、こうなると・・・飛び級を目指す、最速カリキュラムというものが必要になるのでは?無用な反復を避け、効果的な直列カリキュラム、理解が困難になれば、数ページ後戻りするか、違った表現で書かれた類似のテキストを参照させるとか・・・自学によって高速に知識を詰め込んでいく・・・まあ、詰め込みの利く人間っていますから・・・あとは、その詰め込み方もあるでしょうからね。

 理想は・・・ただ読むだけで、概念が理解できる。しかも関連知識を取り込む余裕のある、知識の配列というものが適切に行うことができればということになります。そのための脳みその鍛え方なんてあるのかもしれません。

 たぶん、気になる日本版ウィキペディアと英語版やドイツ語版の記載内容の違いが、なんとなく、教育システムの違いを表しているような気がします。

 簡単に言えば、知識を伝えるのに、日本語版は教科書的にXXはXXはである的なもので、その事柄の歴史的な背景などは記載されていないものが多いような?知識というものは、ある日、突然湧いて出てくるものではないのでね。

 日本は、2番手当たりを走ればよいのでしょうが、一番になると目的を失ってしまい、自ら目的を生み出す能力に欠けているのかな?なんって思えるわけです。気のせいならば良いのですが・・・近頃、インターネットの中の情報が画一化しつつありますね。どこを見ても、同じビジネスモデルの反復と、同じ情報の反復というか、引き写しというのか?不思議な気がします。有益な情報にたどり着くためのプロセスが、近頃やたらと多くなってきたような気もしますね。

 さて、情報に接するための教育ってどんなのが良いのやら?気になります。
(2012.05.05)

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