アンティークな?蓄音機とSP盤(3)

 とりあえず、ゴム板など買い込んで、円切カッターなどもオルファーのや100円ショップのものなどを買い込んできて試作します。100円ショップのカッターはオルファーのと似ていてかなり頑丈そうな作りなんですが、ためしに2mmのゴム板で同じ大きさに切り出してみると、100円ショップのやつはどうも一回り小さなものが切れてしまう・・・刃の立付の精度が違うのか不明ですが・・・薄い紙なら問題なし・・・これは、後でアルミ箔を切るのに使うとしましょう。

 あとは、ダイヤフラムの代用品が欲しくて・・・そこで、厚手のアルミ箔を物色してきました。探す場所は、ホームセンターの台所用品売り場・・・クッキングホイルは薄すぎて音にならないだろうと思うのでね・・・これはずっと大昔にテスト済み・・・そこで厚手の平らな物は・・・見出したのは、アルミのたれ皿です。およそ0.1mmぐらいありそうなんで、これで試作してみます。接着剤も買わねば・・・アルミとかを張るにはボンドG17ですかね。どうせ昭和初期の金属用の接着剤は生ゴムを溶剤で溶いて使っていたのでしょうから・・・

 私の手元にあるコロンビアNo.15のダイヤフラムの残骸をみると、ダイヤフラムは2つの部品から成り立っているように見えます。中央部の厚めのアルミのプレス加工された円盤と、ドーナッツ型の薄いアルミ箔って感じですかね。

 工具や、材料を買い込み始めたのは、動力部の不具合がある程度明らかになって、調整だけでOKになりそうな状況になったからなのでね。一応は、最初から動いていましたが、ちょっと汚い盤だと動かなくなるし・・・何か摺動音がしますから、これは何か調整が変だという事なんでしょう。

 ターンテーブルを外し4本のネジを取れば、板ごと外れて、裏返せば機関部が現れます。この機関部がついている板には右のような三菱のマークと135という数字が刻印されています。

 メカニズムはコロンビアの製品です。三菱とコロンビアって提携関係があったんですかね?・・・三菱というとオーディオではダイヤトーンですけど・・・ダイヤトーンは昭和21年から使われている商号ですね。パールトーンか・・・商号登記をチェックするのは面倒だし・・・この蓄音機も、かなりマニアックな製品ですが・・・ダイヤトーンは相変わらずマニアックな商品を出していますね。200万円を越えるスピーカーか・・・こういったやつは音が桁違いに良いのは知っていますが、普段使いにも・・悪くないけど、私がこういった高級な物にそぐわないのが問題ですね。上に物を置いたりしちゃうから・・・私には一般品で丁度いいんです。というより、そもそも買えない・・・

 さて、音が出いるのは、ガバナーの部分です。他の部分は平歯車ですから音が出ることはあまりないのでね。部品を端から眺めると、昔の工作精度の低いものを、それなりに高精度に動かすための工夫がありますね。

 左の写真、久々にこういった機構を見ました。ウォーム&ホイールのウォーム・・・実は、この機構を眺めて、しばし考え込んでしまいました。理由は簡単で、ウォームギアって、この螺旋で歯車を駆動して、その逆はできないと思いこんでいました。まあ、実際に逆回しができないものが多いんです。たとえばクラシックギターなどに見られる機械式のペグや、天体望遠鏡の微動装置などに使われています。そのため、あれ?なんで調速器を駆動するギアが無いのか?なんって悩むわけです。

 このウォームの場合は逆に動かせないものとは違って、螺旋の角度が大きくなっているのでウォームホイールから回転させることができるんだと気づくまでにちょっと時間がかかってしまいました。安息角とかそういった言葉が頭の中に浮かんで、なるほどと納得したわけです。さて、この部分を見て、もうひとつ、一瞬あれ?って思ったのは軸受けの摩耗が大きいなってね。真鍮の軸受けがあって、その中心から外れた端の方にウォームのシャフトがあるのでね。しかし、ガタはほとんどないので・・・ああ、軸受けが偏心させてあるんだって・・・軸受けを回転させると、シャフトの位置が微妙に変化してウォームとウォームホイールの位置関係を調整することができるというわけです。まったく、色々と仕掛けがあって、今の高度な加工技術を見慣れた目には奇異に思えるものが沢山出てくるというわけです。こういったもので感心しているんですから安上がりなものです。近代デジタルライブラリー - 家庭に必要な蓄音機の知識 40コマ ここに、右のようなガバナーの概念図が出ています。3つのMのおもりが、回転が増すにつれて遠心力で軸から離れ、固定されたAにBが近づいていきます。そしてある速度を越えるとCのブレーキディスクがDのブレーキシューに接触して回転を落とすことで調速しているわけです。

 さて、私のやつでの不具合は、このブレーキディスクと、別の歯車が軽く接触していたというわけで、初期位置でわずかに触れているので動き出す時に軽い摺動音がして、回転が上がらない・・・ちょっと指で助けると、遠心力でディスクの位置が動いて接触しなくなるのでちゃんと加速していくという状況でした。

 上の図とは、ブレーキの位置の上下が逆になっていますが、同じですね。ブレーキディスクが接触していたのは、ウォームホイールだったというわけです。最近の給脂によって、古い油が浮いてきています。これやしばらく使って、古い油が十分溶けたら、軽く拭き取って新しい油をくれてやるだけで良さそうです。

 というわけで、ざっと調整するだけで調子はかなり戻ったようです。この微調整はどうやればよいのやら?回転数はストロボスコープ盤が必要で・・・確か、1枚所有していたはずですが何処へ入れたか?こいつを探すのが一仕事ですね。多分、雑多なレコードを放り込んである箱に入っているはず・・・そのうち、この箱を探し出す事にしましょう。

 この調整できちんと動くようになったので、とりあえず満足です。さあ、本当はゼンマイも引っ張り出して完全にオーバーホールしようと思っていたんですが、こりゃ、サウンドボックスの方もやって音出しを考えないと・・・というわけで、サウンドボックスいじりへと走り始めてしまうというわけです。

 さて、サウンドボックスはダイヤフラムの破れが問題ですが、他に材料が無いので買い込んできたアルミのたれ皿を100円ショップの円切カッターで54mmの円盤にして、真ん中辺に適当な穴をあけて、ぼろぼろのダイヤフラムに張り付けて修理完了。ぼんどG17はきちんとくっつけてくれています。新しいパッキンを切るのは後回しで、もともとのパッキンを再使用です。組み立てておしまい・・・簡単なものです。指で針先に触れると良い感じの音が出ています。これで、サウンドボックスの修理は完了・・・音の方は保障できませんが、これで鳴り響くこと間違いない・・・というわけで、直ぐに組みつけて回してみると・・・音が出るんですが、音が汚すぎるんです。

 この変な音は記憶にはあるんですが、何がいけないのかは不明・・・というより思いだせなかっただけなんですが・・・後で思いだしたんですが・・・トラッキングがうまくいっていない時の音なんです。

 最初は、適当に張り付けて作ったダイヤフラムが鳴いているのかと思いましたが、特定の音によって起こるという感じではないので、ビビりとは違うようです。後は、スタイラスバーを支えるベアリング周りの振動か?これも、もう一度分解組み立てを行ってチェック・・・これも違いました。

 レコードが悪すぎるのか?水洗をして・・・更に駄目押し・・・シリコンスプレーをかけると・・・つるつるぴかぴかになり、なかなか良さそう・・・しかし、改善されません。音は徐々に悪くなっていきます。針は毎回、ルーペでチェックして・・・減りの速さに驚きつつ、毎回交換・・・まあ、時々どのくらい減るのか数回使ってみたりもしますが、それなりにきちんと減って音も悪くなるので交換しながら、ゼンマイを巻いてチェックします。

 ゼンマイ巻きは、なかなか重労働であると分かりました・・・おかしな振動を生み出している場所は・・・レコード盤・針・スタイラスバー・ダイヤフラム・・・後はホーンですからホーン中に小人が住んでいて抗議しているとかがなければ可笑しな音はしないはずなんですが・・・そこで、サウンドボックス自体が振動しているのか?普通はサウンドボックスが振動するわけはないんですがね。LPなどの小さな軽いピックアップだって、振動している部分の質量に比べると莫大な質量を持っているので不動点として通用するわけですから、こんな重たいサウンドボックスを振動させ続けるものは・・・ありえない・・・しかし、サウンドボックスに触れると・・・振動は検知できないのですが、音が良くなるんです。ノイズでぼやけた音がすっきりくっきり・・・あ!トラッキングがうまくいっていない時の音!サイドフォースキャンセラーが不調なとか、カートリッジが傾いて取り付けられている時の音じゃん!

 で、よく見るとサウンドボックスが、傾いていたんです・・・図で示すと、右のような感じです。Aが正しく正面から見て垂直になっていて、キャスター角がついていれば良いわけですが、私の所のやつは、Bのように傾いているわけです。モノラルだから関係ないかと思いきや、これでは正しく針溝をトレースすることができなくて再生音は悪く、しかもノイズが入るわけです。

 さあ、こりゃ困ったぞ・・・そして、しばらく休ませておくと、ほぼ垂直に立ってくれるんですが・・・こいつが徐々に寝てくる・・・よく見ると・・・サウンドボックスのトーンアームの接続部の制振ゴムが粘土状態・・・荷重がかかると変形し続ける、荷重を除くと非常にゆっくりと元の形に戻る・・・それで、音がでるから喜んでJo Stafford の Tennessee Waltz を何回も掛けて、針の減り具合を眺めて感心していたあとで、このゴムも作るには?って厚みを図ると上で4mm下で6mm程度になっていたのかと気付くわけです。

 ということは、形状としてはまともに見える制振ゴムを交換しなければならないのと、トーンアームの分解整備+修正を行わなければならないことになります。修正が必要だと・・・テフロンテープだな・・・コイルを巻く時に使ったのが残っていれば・・・5cmほどの距離の所を2〜3mm上げるには1pの所を0.4〜0.6m上げればOK、回転するからこすれても減りにくいテフロンテープ・・・それとも、半田でも盛って修正するか・・・それとも、どうせ作りなおさなければならない、制振ゴムの方の形状で傾きをキャンセルさせるか・・・というより、この制振ゴムは手に入るのか?

 一応、この制振ゴムは3ピース構造にして作れば作れないことは無いけど・・・リペアパーツはどこかで扱っていないものかね?ネットの上で探しても、とろけちゃったゴムの写真ばかり・・・それからすると、私のやつは形があるだけましなのか?

 とにかくインシュレーターを作らねばならないことは間違いないですね。一応、安易な作成方法は、右のようなAとCは同じもので3mm厚のゴム板で作ってBだけ1mm厚のゴム板で作ってABCの順に貼り合わせれば、この赤い奴が完成するはずなんですが・・・PC上で型紙を作ってプリントアウトして、その通り切り出せばOK・・・そうだ、3Dプリンターなんって良いかもしれない・・・そうすれば、それなりの素材から切り出す事が可能になる・・・現物から推測される元のサイズを割り出して、データ化すれば良いわけですからね。

 あと10年もしたら、不足部品は自作できる時代がやってくるかもしれませんね。しかし、現状では、新製品の試作と同じ作業を自前でしなければならなくなるという事なんです。限られた材料で、しかも、原則自分の持つ技術で・・・これって、色々なものを自分でリストアするのは困難だという事を意味しますね。

 参ったな、こいつを作るのに分度器が必要だ・・・まあ現物合わせで作ればよいから、それほど必死に考えなくても良いですが・・・あとは、インチのノギスが欲しい・・・ああ、やっちゃった・・・インチ・ミリ表示切り替え式のデジタルノギスがある・・・こいつなら換算の手間が省けるのに・・・また、授業料を払うことになる・・・しかし、インチにだと0.125とか0.375インチとか表示されるのかね?1/8インチや3/8インチとか・・・まさか、分数表示ってことは無いだろうから・・・1/16インチは0.0625インチだな・・・分数・小数の対照表でも作って置くか・・・単純にmmインチ対照表を作っておけば問題無しですね。

 何か作ろうとすると、色々と覚えることが増えるのが問題です。25.4mmが1inとなっていますが・・・これって1950年代に定義された国際インチ・・・この1940年代のインチはどうなっているのか?

 さて左の形が残っているやつを元に実物を1つ作りだす事にしましょう・・・どこまで綺麗なものが作れるのかそれが問題です。トーンアームを修正するのは困難とわかりました。ねじ込み式なんですね。そして、サウンドボックスがある一定の範囲で回転するようになっているし・・・なかなかよく考えてある・・・ということは、このインシュレーターを新しいものにすればOK・・・それでもだめなら、バネでも付けるか・・・残念ながらテフロンテープの出番は無いようです。多分、コイル巻きの道具箱の中に残ってるはずなんだけど・・・古い記憶・・・

 さて、φが6.5oと3.5mmぐらいのポンチを買い込んでこなければ・・・色々工具が必要になるなぁ〜

 大正の終わりから昭和の初めなら、蓄音機屋が始められるだけの知識が蓄積されてきましたね。近代デジタルライブラリー - 一千円開店案内 109コマ だめだね。この時代には部品は新品で揃ってるから・・・近代デジタルライブラリー - 商売うらおもて. 続 117コマ 気軽な商売とも言えないようだね。やはり、現代に生きてレトロな趣味としていじる方が気楽でいられるようですね。

(2013.11.27)












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